アマレスVS重量挙げinプロレス

アマレスでオリンピックに出た長州力選手が、唯一やった異種格闘技戦が、重量挙げチャンピオンとの試合で、当時、ジャイアント馬場選手は(格闘技経験なしの重量挙げ選手に長州力選手が)「勝って当然だろ」と言ったらしい。


プロレスとはいえ、一種の格闘技だとして、格闘技であるアマレスのチャンピオンと、格闘技ではない重量挙げのチャンピオンが闘って、どちらが勝つと言えば、それはアマレスだろう。重量挙げのチャンピオンは全身筋肉で体がでかくて、見た目に迫力があり、下手なボディビルダーよりすごい体つきをしている。いかつい外見で、格闘技経験ゼロで弱い相手となれば、見掛け倒しのいい鴨、長州側にとってお得な相手に見える。


ボディビルダーと重量挙げの選手とアマレス選手は練習メニューが似ているらしい。美しい筋肉を付けるために重量挙げをするボディビルダーと、重いバーベルを持ち上げるために重量挙げをする選手が、似たトレーニングなのは想像できるが、アマレスもメニューの6割から8割は筋力トレーニングで、ボディビルダーや重量挙げの選手とジムが重なることも多いらしい。


ボディビルと重量挙げの練習メニューの違いは、全身の反動を使ってバーベルを持ち上げる重量挙げに対し、目的の筋肉のみを使って持ち上げるボディビルになる。ボディビルの場合、筋肉に負荷を与えすぎても筋肉が付かず、負荷が少な過ぎても筋肉が付かないため、それぞれの筋肉に特定の負荷を与える。例えば全力で挙げたときに持ち上げることの出来る重さの70%の重量を15分間全力で上げ下ろしをする。最も効率的に筋肉が付くとされる負荷を全身の筋肉に与えるため、個別の筋肉に対して、筋力を測定し、個別の筋肉を個々バラバラに負荷を与え鍛えて行く。全身を使ってバーベルを上げると、どこの筋肉をどれだけ使ったのか測定不能になるため、効率良く筋肉を付けられない。ボディビルのみをしていると、筋肉は付くが、個別の筋肉を連動させて全身を効率よく動かすことが苦手になるため、神経系統が発達しない。


アマレスと重量挙げの違いは、バーベルを持ち上げて下ろせば勝ちなのが重量挙げで、相手選手を持ち上げて投げれば勝ちなのがアマレス。持ち上げる対象がバーベルなのか人間なのかの違いだ。人間の場合、持ち上がられないように重心移動したり、相手につかみやすい部分を持たせなかったり、といったポジションの取り合いをする要素が出てくる。


アマレスと重量挙げのもう一つの違いは、重量挙げの場合、トップアスリートだと、自分の体重の2〜3倍の重さを上げるが、アマレスの場合、体重別で自分の体重と同じ重さの選手を持ち上げる。仮に選手の体重が80キロだとして、アマレスの選手は80キロのバーベルでトレーニングをするが、重量挙げの選手は160キロ〜200キロのバーベルを使う。この辺からアマレスVS重量挙げのバトルは発生する。


重量挙げで世界トップクラスの日本人選手があるジムに通っていた。トップクラスだから、周りにお弟子さんやお付の人が何人もいて、重量挙げは、バーベル落として選手が怪我したり、事故になったりしちゃまずいので、サポートの人を左右両側に付けてトレーニングしている。重量挙げは200キロ超えるようなバーベルを一分ぐらい掛けてゆっくり上げてゆっくり下ろすのですが、隣で80キロの軽いバーベルを速い速度でガチャガチャ言わせながら上げたり下ろしたりしている人がいる。音がうるさい。俺はこんなにすごいんだぞと、音を出して主張しているけど、お前80キロの軽いバーベルで何をやっているんだと、周囲のサポートの人達相手に陰口を言っていた。同じ重量挙げの選手なら、世界トップクラスの自分に挨拶の一つもあって良いはずなのに、いつも一人で来て、80キロのバーベルをガチャガチャやってる。そんなある日、いつものようにトレーニングしていたら80キロのバーベルガチャガチャやっている人間が来て「俺はアマレスで日本で3位になった**だ。文句があるなら、俺のアマレス道場に来てアマレスルールで勝負しろ」と言われて「悪い、アマレスの選手だとは知らなかった」てなエピソードがある。


これが特殊な例ではなく、ウエイト系の器具を置いたジムではよくある話らしく、アマレス出身プロレスラーのカールゴッチは、アメリカのジムで鍛えていたとき、同じジムにまだ無名のボディビルダーだったアーノルド・シュワルツネッガーがいて、すごく仲が悪かったらしい。ボディビルダーは筋肉の切れを見るために鏡に向かってトレーニングをする。特に役者志望だったシュワルツネッガーなどは、ウエイトトレーニング以外に、演技の練習も鏡の前でする。質実剛健で強さを追求したカールゴッチにとって、男が何時間も鏡の前でポーズを取るのは気分の良いものではなかったようだ。


ウエイト系の器具が入ったジムはどこでも、ボディビルグループと、重量挙げグループと、アマレスグループがいて、それぞれに仲が悪いという予備知識を持った上で、重量挙げVSアマレスの試合を見ると、それなりに面白い。


アマレス選手から見れば、格闘技経験ゼロの相手でも、200キロのバーベルを軽々上げているのを日常的に見ていて、80キロのバーベルを使っている自分が試しに140キロ上げようとしたら上がらなかった、なんてのを経験すると、パワーでは勝てない前提で、試合を組み立てなくてはいけなくなる。捕まってベアハッグされたら終わりだ。ましてボディビルダーでも、アマレス経験ありのボディビルダー、アポロ菅原選手VSアマレスの鈴木みのる選手や、柔道・柔術経験ありのボディビルダーで、グラップリングの世界大会で上位入賞もしているタカ・クノウ選手になると、ジムの中でボディビルグループに入っているけど、格闘技の技術もある。ジム内の人間関係を思い描きながらプロレスを見ると面白い。