プロレスにおけるガチ

プロレスの結末が事前に決められているということは有名だが、結末を守りさえすれば、その過程において、ガチのスパーリングをしても良い。というのが、日本のプロレスであったり、WWE以前の古いスタイルのプロレスであったりする。よく前田日明選手が、「昔のプロレスは〜。ガス灯時代のプロレスは〜。」という言い方をするが、今のプロレスでもガチのスパーリングを見せているという一例を動画を見ながら書いてみたい。


カート・アングルVS棚橋弘至戦(2009/04/05)
Hiroshi Tanahashi vs Kurt Angle 2009 04 05 Part 1 :


アマチュアレスリングアトランタオリンピック百キロ級ゴールドメダリストであるカート・アングル選手と新日本プロレスの棚橋弘至選手が闘う試合です。
試合開始直後、カート・アングル選手は棚橋選手のバックを取りまくります。アマレスにおいて、バックを取ればそれだけで1ポイント取れて、6ポイント取った地点で勝ちになります。他には、相手選手を背中からマットに落とす(投げ、テイクダウン)で3〜5ポイント、相手選手の両肩をマットにつければフォール勝ちなどありますが、プロレスのように勝手に勝ってはいけない(フォール勝ちしてはいけない)、相手選手を怪我させてはいけない(相手選手自らが受身を取っての投げ以外は危険)という前提で行くなら、プロレス内スパーリングで、お客さんに両選手のガチの力量を見せるもっとも安全な方法がバックを取ることで、これによって相手選手に怪我をさせることはない上、誰の目から見ても両選手の強弱が明確にわかる方法です。


7分40秒。片足タックルに行った棚橋選手と、客席=カメラに向かって、左右に首を振って、まったく効いていないというジェスチャーのカート・アングル選手。


8分20秒。片足踏み付けからヘッドロックに行った棚橋選手。アマレスルールでは両方反則技です。アマレスにない技を出すことで、ガチ度が増していきます。ヘッドロックは、ルーテーズの師匠、エド・ストラングラー・ルイスの必殺技で、テレビによってプロレスがショー化する以前の最も典型的な痛め技のひとつです。大怪我させないまでも、相手に激痛を与えることができる。そういう技です。
例えるなら、アマレスでの実績を引っさげてプロレスに来た生意気盛りの選手に、アマレスでは禁止されている関節技主体のキャッチレスリング系レスラー(カール・ゴッチ選手、藤原喜明選手)が制裁マッチを行う。そういった趣きです。


8分22秒。ロープに振ると同時に、カート・アングル選手は棚橋選手のわき腹を二度ゆっくり叩いています。マット、もしくは相手選手の体を二度叩くのは、プロレスにおいてギブアップを意味する。負けを認めるからヘッドロックを外してくれという意思表示をして、棚橋選手をロープに振っています。
何度もバックを取ってアマレスの力量差を見せ付けた。それに対して棚橋選手が意地を見せたので「キミが強いのはわかった。だからもう外してくれ」という意思表示のわき腹ギブアップ&ロープへの振りです。
そのロープへの振りを二度無視して、外す気がない棚橋選手に、カート・アングル選手は持ち上げてのバックドロップ。ヘッドロックかけられた状態からのバックドロップは、ルーテーズ選手の必殺技で、プロレス史をなぞるこの動きは、アマレス選手がプロレスに一定のリスペクトを示す動きでもあります。
投げられて(アマレスなら最低でも3ポイント、下手すると5ポイント取られて棚橋選手が負けてます)、グラウンドになってもヘッドロックを外さない棚橋選手。グラウンドになることで、袈裟固めの状態になり、ヘッドロックはより外しにくいものになります。
Hiroshi Tanahashi vs Kurt Angle 2009 04 05 Part 2 :
2つ目の動画1分。ヘッドロックのダメージが割りとリアルに感じられます。ヘッドロックは取りあえず横においても、このバックはガチでしょう。