小説の設計図

この著者の持つ暗さが自分には心地良い。自分にとって勉強になる本ではなくて、共感可能性の高い本を買おうとして買ったら、予想通りの内容で共感しまくりだった。


内容的には、読者を共感に導く小説の文章に対する当てこすりで、共感批判になっている(主に序章・第一章)。著者は幼稚園の中で「サンタさんなんていない」と口走る園児に似ている。サンタさんの存在を素朴に信じている園児がいる一方で、サンタさんはいるよと言って、子供達の枕元にプレゼントを置く大人達がいて、サンタさんの存在を信じてないが、信じている振りをすれば親からクリスマスプレゼントをもらえることを知っている園児もいて、その中で一人サンタさんなんていないと口走ることは、何のメリットもないように思える。


小説は広い意味でのショービジネスだ。ショーの中に出てくる純愛やスーパースターや殺人鬼やタイムマシンは、偽物だ。でも、ショービジネスの作り手はその虚像を演じ、ショービジネスの受け手は虚像を信じる。小説のインチキ性を暴くことは小説の作り手・受け手の両方から疎外される。


よい子にしていれば、プレゼントがもらえると言われて、よい子にしていたのに、プレゼントがもらえなかった夜。園児はサンタさんなんていないと泣きじゃくる。朝、幼稚園に行って、サンタさんなんていないと言っている先輩を見つけて少し安心する。