逆遠近法

孫引きなのだがNHK放送出版協会時代の思想地図Vol.1 http://www.amazon.co.jp/dp/4140093404/ の黒瀬陽平氏の公募論文(実質的デビュー作)のp455において、モザイク画について書かれたジャン・パリスの「空間と視線」p216が引用されている。http://www.amazon.co.jp/dp/B000J89HSY/


「モザイクの背後に空間がないとすれば、カリストスの言うように、沈黙が≪その至高の状態である≫存在の深さ以上の深さをそこに探すのは無益な業だからである。真の空間、具体的な空間は、後ろではなく、その前にある。つまり、私たちの空間にほかならない。したがって、私たち自身が画面となるのだ。」


いわゆる遠近法が、平らなキャンバスの奥に立体的な広がりを演出するのに対して、逆遠近法は、キャンバスの奥にでなく、キャンバスの手前に空間の広がりを演出する。この技法を知った時、頭に浮かんだのが、
中山いくみさん http://nakayamaikumi.web.fc2.com/index.html の絵だ。
彼女の絵のシリーズに「映り込み」作品集がある。絵を入れる額縁のガラスに映り込む人影や風景を絵に直接描き込んでいるのだ。この気持ち悪さが分かるだろうか。絵を見る私の後ろに誰かいる。その誰かの姿が絵に「映り込ん」でいる。夜中に彼女のホームページを開き、自分一人しかいない部屋の中で、パソコンに映った彼女の絵をじっと見ていると、パソコンモニターに絵とは別の人影が薄っすらと「映り込み」、思わず自分しかいない部屋の中で後ろを振り向いてしまうのだ。絵を通して、絵を見る私の後ろの空間を意識させる技法が「映り込み」だ。

ハリウッド版呪怨で全米一位を獲得した清水祟監督が、アメリカのホラーとジャパニーズホラーの違いを解説していた。アメリカのホラーは、チェーンソーを持った殺人鬼が追いかけてきて、人を殺し血がドバドバ出る明確で物理的な恐怖だが、日本のホラーは、「不吉」でガラスや暗闇に霊が映り込む。それは具体的にどのような被害が出るのか不明で、見る人によっては霊が映り込んでいることすら気づかないが、不吉な感じがする。と語っていた。中山いくみさんの絵は、呪怨と似たある種の不吉さがある。