ジェンダーとか何とか

恋愛感情という物を最も純粋に描いている映画、として個人的に真っ先に頭に浮かぶのはフルメタルジャケットだ。男しかいない軍隊の中で銃に女性の名をつけて、その銃(女性)を守るために命をかけて戦う映画で、異性という物は物質として存在するわけでなく、概念としてしか存在しないという感覚が前面に出ている。


ある種の任務が与えられる。それは仕事でも受験勉強でもスポーツでも良いが、過酷な任務が与えられて、努力をしてもすぐには成果はあがらないが、努力をしなければ永遠に成果は上がらないという状況の中、世間、もしくは自分が所属している組織は、成果が上がらないと努力をしているだけでは評価してもらえない。評価されない努力を一定期間以上し続けないと成果につながらないような時、モチベーションを維持し続けていくために「自分(の努力)をわかってくれる異性」という概念が発生する。誰も褒めてくれない努力を、その人だけはわかってくれる褒めてくれる。アイドル(偶像)というのは、その概念を物質化した物で、キリスト像やマリア像の偶像崇拝は、報われない努力や苦労を繰り返さざるを得ない日々の苦しい生活から来ているわけで、女性の名前の付いた銃や励ましソングを歌うアイドル歌手や脳内彼女や脳内彼氏はそういった概念の具象化だ。


プロ野球選手は水商売の女性と結婚することが多いと聞く。理由は色々あって、高校野球からプロ野球に行くような選手の場合、野球漬けの名門高校野球部から、男ばかりの職場であるプロ野球に入っても女性と知り合う機会がないとか、一年の半分が遠征なので、一箇所に住む女性と長く付き合うのが困難だとか、色々言われているうちのひとつの理由として、男を育てる技術を持ちかつ、そこに喜びを見出す女性となると水商売とかになって来るのだと思う。水商売というのは、お客さんの愚痴を聞いて、褒められたいお客さんを褒め、叱られたいお客さんを叱る。ある種偶像チックな仕事だ。


あるとき、非常に聡明なキャリアウーマンと話をさせて頂く機会があった。美人で頭もよく社会的地位も高い、非の打ち所のない方だったのですが、一ヶ所、気に掛かった箇所があって、社内的にその女性よりも下の地位にある同期で同じ年齢の男性が良い仕事をすると「イーーッとなる」と言うんですよ。他は物腰の柔らかい普通のしゃべり方だったのですが、そこだけ「イーーッとなる」という幼児語で、カワイイと言えばカワイイのですが、ヒステリックで感情的になっているわけです。それは彼氏に対してもそうだというんです。男性が良い仕事をするとヒステリックになってしまう。


ある種の男性は、恋愛対象に対して、努力したら褒めてくれて、サボっていたら叱ってくれて、自分能力を引き出してくれる、馬の前のニンジンの役割を期待するわけです。自分ひとりではできない努力も、この人のためなら、この娘が喜んでくれるなら我慢できる乗り越えられる。ある種の理念的な恋愛感情とはそのようなものだと思うのですが、現実の女性というのは、ある種の仕事に関して努力したり良い仕事をしたりすると機嫌が悪くなる。サボったり、干されたりすると機嫌がよくなる。彼女を喜ばせるためには仕事は出来ない方が良いし、努力はしない方が良い、みたいになってくる。


社会に出る側/それを支える側という二極の役割分担があった時に、キャリアウーマンは社会に出る側で、水商売は支える側に位置するのだと思う。


ショービジネスの世界において、これは、演者/スタッフになるわけで、女性演者と男性スタッフの夫婦というのは世間に多くて、劇団健康のケラさんと緒川たまきさんとか、野田秀樹さんと大竹しのぶさんとか、劇団の座長と女優、音楽プロデューサー兼作曲家と歌手、雑誌編集者やカメラマンとモデルやグラビアアイドル、TVの構成作家・ディレクター・プロデューサーと女性お笑いタレント。ショービジネスの出演者(キャスト)とキャスティングの決定権を持っているスタッフ。この組み合わせの夫婦の場合、お互い相手に嫉妬しないという関係がないと仕事が成立しない。


ショービジネスといった時、ラブストーリーやラブソングが占める市場の割合は多い。観客に擬似恋愛を売るのが仕事であり、出演者は媚態を商品として売る。極端な話、男は自分の彼女が売れっ子AV女優になって、コンビニに行くと彼女の手ブラ写真が表紙のエロ本が大量に並んでいて、友達から「いや、昨日君の奥さんのAVで三回抜いたよ」と言われて耐えられるのかという話で、普通の男性なら多少なりとも嫌な気分にはなる。それを、これはあくまで仕事なんで、俺は彼女の仕事が評価されて売れて行くのを応援しているし、嬉しいと思うと言えるのは、AVを仕事として経験上理解しているAV業界のスタッフとかになって来る。これがAVじゃない普通の女優だとしても、お酒のCMで笑顔で俳優に酒をついでいるのを見て、木梨のりたけが「家ではそんなことしたことないだろう!」とキレたというゴシップが週刊誌に載ってたりする。


キャスティングの決定権を持った男性スタッフにしても、そこに女性の出演者が大勢売込みにもくるだろうし、仕事上、出演者を選別するために商品のチェックをするだろう。ラブソングやラブストーリーにおいて媚態が売りであるなら、商品である媚態をチェックするのは、仕事と言えば仕事であるわけだ。市村正親が二十代の女優と二時間酒を飲んでいたことに妻の篠原涼子が激怒。というゴシップが芸能誌に載っているのを見る。劇団の座長が女優と酒を飲むことが仕事か浮気かは判別しがたい。


女性の出演者がキャスティングの決定権を持つ男性スタッフに売り込みをする時、ラブストーリーの主演女優のオーディションで、媚態が売りならそれも出すだろう。笑顔や甘ったるいしゃべり方や色っぽい声色が演技上必要なら、そういう演技もするだろう。そこでその男性スタッフが、非常に良いと褒めてくれてあなた主演でやりましょうとなったときに、その男性スタッフ、劇団の座長なら座長としましょう、その座長は、女優としての自分の技量を気に入ってくれたのか、女性としての自分を気に入ってくれたのかを瞬時に判断し、仕事上のパートナーとしてでなく、個人の恋愛感情で好きになってもらった場合には、仕事重視の女優としては、遅かれ早かれ座長との関係を断つことを考えなければならない。


仕事を越えて、その女優を好きになった場合、その女優が自分の劇団以外の仕事をしていると、嫉妬の感情が芽生えるので、自分の劇団以外の仕事を妨害し始める可能性がそこに発生する。劇団以外でのその女優の仕事がすべて失敗すれば、公私共にその女性を独占できる。そういう発想が座長に生まれた地点で、女優にとって座長は仕事の障害になる。仕事と恋愛感情は分けないと仕事は上手く行かない。にも関わらず、AVやショービジネスといった極端な例だけでなく、ごく普通のオフィスの仕事においてすら、嫉妬の感情は発生しているらしい。