かみ合わないプロレス

プロレスには格闘技寄りのパワフルなレスラー、エンターテーメント寄りの技巧派レスラー、色々いて、パワーファイター同士が闘ってどちらがパワーNo1かを決める試合や、技巧派同士が戦ってどちらが技巧No1かを決める試合がかみ合った試合だと言われている。(中西選手の発言参照)
胸板チョップ合戦等はパワーファイター同士じゃなきゃ出来ないし、関節の取り合いならU系同士、空中の跳びあいならルチャ同士じゃなきゃできない。
でも、私にはかみ合わないプロレスの方がかみ合ってるように見える。典型的なのは空中を跳ぶのが上手い選手同士だと、跳んだ選手を受ける選手がいなくなるという例だが、ストーリー無視のパワーファイター対ストーリー重視のエンターテーナーの試合を見ると、
普通のプロレスは序盤にお互いに手を組んだ状態から力比べをして、そこから関節技へ移り、という静かな立ち上がりがあって、徐々に盛り上がっていく物で、最後にスープレックスか何かで投げて、3カウントで勝つと。スープレックスは投げられたら絶対に立てないという暗黙の了解があって、技の説得力を増す意味でもスープレックスで投げられた選手は立っちゃいけないことになっている。ところが、アントニオ猪木選手がヨーロッパで遠征したとき、アマレス経験はあってもプロレス歴の浅い選手とやると、アマレスは少しでも早く相手の両肩を地面に付けた方が勝ちの競技でアマレスのオリンピック経験者とかになると、技の攻防を見せて試合を長時間楽しませるというプロレス的な動きや思考が無いので、試合が始まるといきなりスープレックスで投げてしまい、投げられた猪木選手は、もっと長い時間試合をやってお客さんを楽しませなければいけないので、立たなければいけないのだが、プロレスの暗黙の了解上、簡単に立ててしまってはスープレックスというフィニッシュ技の説得力がなくなるので、ダメージはあるが、でも何とか立つというそぶりを見せるのだが、それでもいきなり相手選手がまたスープレックスで投げる。結局そのアマレス出身の選手はスープレックスしか技を持っておらず、一試合に26回も猪木選手を投げたとかあったらしい。私には中西選手はそのアマレス出身のプロレス歴の浅い選手に見えてしょうがない。フィニッシュにしか使っちゃいけない技をいきなり出して、相手を困らせる。その技を出されることで試合中にも関わらず相手選手は台本を自ら作り直さなければならない。簡単に立ててはまずい。でも、試合時間は長くなくてはいけない。苦しいギリギリの中で矛盾のないストーリーを組むめるのは、カシン選手や中邑選手や西村選手といったストーリー寄りの選手だけだ。前々回の東京ドームで中西・カシン組対元WWE組の試合は、WWEのエンタメプロレス対新日本のストロングスタイルというプロレス観の違いを試合で見せる興行だと思う。でも、試合前に元WWEの選手が、インタビューで「格闘技寄りのストロングスタイルも出来ますよ」的なことを言って、新日本のスタッフも「WWEはエンタメのイメージがあるがアマレスのバックボーンもしっかりしていて」みたいなこと言って、お互いのプロレス観は通じ合ってるのですよ的なことを試合前に言って、試合の見所を奪い倒しているわけです。そこをストーリーテラー(物語作家)カシン選手が、エンタメVSストーリー無視のストロングスタイルで試合をまとめ、最後、相手選手を振り回し、カシン選手にぶつけた中西選手が味方含めて三人を倒したリングの中央で勝ち名乗りを上げるという「結局カシン選手もエンタメ路線じゃないか」というセルフツッコミで試合を終えている。長州力というプロレスにストーリーは要らないという人が現場監督だから、元WWEの選手も長州好みのヤングライオン(新日練習生)のような丸刈りでマイクパフォーマンスもなくリングに上がったが、ストーリー重視のカシン選手はギリギリのところでストーリーを作っていた。
これが、中邑選手対カシン選手のような両方ストーリー作れる人だと、台本通りというか、必要以上にパターン通りになって、詰まらなくなる。ストーリー否定派対ストーリー重視派だからこそ、壊れた台本を組み直す即興性がストーリーテラーに要求され面白くなる。
配球パターンがどうのバッターの苦手な球種がどうのなどというデータなんて関係ないんだという剛速球ピッチャーと、配球パターンを重視する頭脳派キャッチャーの組み合わせでキャッチボールが面白いので、剛速球ピッチャー同士のより剛速球なのはどっちか対決や、頭脳派キャッチャー同士のより頭脳派はどっちか対決は、キャッチボールとしては期待度は高いけど完成度は低くなると思う。
ピッチャーもキャッチャーも両方出来るけど、どちらかだけを十年やっている人にはそのジャンルでは勝てないという永田選手は、高山選手の逆をやっている。高山選手は格闘家にはプロレスラーのエンターテーメント性を持って戦い、プロレスラーには格闘家の強さを持って戦うが、永田選手は、パワーファイターの中西選手とはチョップ合戦でパワーを競い、ストーリーテクニック重視の西村選手とはストーリーやテクニックで闘う。両方できる場合は、格闘技のリングでプロレスをして、プロレスのリングで格闘技をした方が、他の選手との差別化は図れると思う。結局、かみ合う試合とかみ合わない試合、どちらが演出として正しいのかはよく分からないのではありますが。