外国人レスラー

ものすごくどうでも良いが、新日本プロレスの外人レスラーの売り出し方が間違えてる気がする。
まず新日本プロレスが他のプロレス団体と一番違うのはメディア露出が多いというところで、雑誌媒体のインタビューなど、新日以外のプロレス団体に外国人が出ても受けれないところを、新日だけは何故かインタビュー記事が載ったりする。
1970年代から80年代初期に掛けてのプロレスビジネスだと、外国人レスラーはヒールとして来日し、日本のプロレス団体を潰すために外国からやって来たというストーリーになっていた。デカくて強い外国人レスラーが、インタビューでは、怖さを醸し出すために本人は無口で、隣にいるマネージャーが早口でコミカルなトークを展開する。マネージャー役はレスラーのデカさを強調するため、背の低い小柄な男が多く、80年代の新日本プロレスだと、テレビ主導だった一時期にはせんだみつお氏が悪役外人レスラーのマネージャー役をやっていたという。小堺一機氏と並んだ時の、せんだみつお氏の異常なまでの小柄さに驚いたことがあるが、悪役マネージャーによくあるレスラーにデモンストレーションで技を掛けられたりする展開でもリアクション芸がある程度出来て、ギャラ的にも高すぎず、テレビ的な知名度もそこそこありと絶妙な選択だと思う。来日したての外国人ヒールは最初は前座で、若手練習生相手にハンデキャップマッチをやって、2人3人掛りでやってくる日本人を一人でやっつけ、外人選手の価値を上げる。徐々に上のランクの選手と闘いながら、無敗のまま最後は団体トップのベビーフェイスとやって負けるというのが、1950年代〜60年代辺りにアメリカで出来たプロレスのビジネスモデルの基本らしい。日本でも、ヒールで人気が出て、その後ベビーに転向しても、人気が落ちない外国人選手(ザ・デストロイヤー選手など)はいたが、最初っからベビーだとルー・テーズ選手やミル・マスカラス選手クラスでもトップの人気者になるのは難しい。やっぱり、最初はヒールで売り出し、ヒールでトップをとったら、ベビーに転向するしないは本人の自由ぐらいが普通だと思う。


マット・モーガン選手が良かったのは、典型的な外国人ヒールの風貌・雰囲気・動き・言動があったからだ。身長2メートル強。スローモーションで動くことでより体がでかく見える。永田選手に蹴られてから、痛がるまで三秒掛かる反応の鈍さは恐竜並みのデカさを感じさせる。雑誌インタビューでカメラやマイクを向けられても、無表情で無愛想で無口。ヒールとしてワザと怖い顔をするわけでもなく、見ようによっては不機嫌そうにも見える無表情が変わらない。リング上で出す技もことごとくパワー系の技ばかりで、イメージを統一。
マット・モーガン選手と一緒に参戦したマーク・ジンドラック選手は多彩な空中殺法を出し、ルックスは典型的な二枚目で、マスコミ受けもよく、インタビューでも愛想よくしゃべり(見ようによっては、マット・モーガン選手のマネージャー役にすら見えた)、髪型やファイトスタイルやコスチュームもWWE色を捨てて、新日本スタイルに合わせてやる気を見せまくっていた。良い悪い別にして、ルックス・言動・ファイトスタイルの全てが超ベビーフェイスだ。
マーク・ジンドラック選手は良い人だと思う。プロレス雑誌でライター陣の評価も高かった。でも、いまの新日本に外国人選手を売り出すノウハウがないことを知らなかった。新日本の演出に乗ったは良いが、二枚目で愛想が良くて多彩な技を持った外国人ベビーを新人として売り出すのは正直厳しいと思う。一度ヒールで日本一の人気を取らないと、最初っからベビーではしんどい。


マット・モーガン選手がハッスルへ行った事で、トラヴィス・トムコ選手がマット・モーガン選手の位置で採用されたという。
http://www.njpw.co.jp/news/article.php?nwid=5770
マット・モーガン選手の位置でやるなら、もっと無愛想な顔をした写真が欲しい。
正直、新日本プロレスを絶賛していた頃のジョシュ・バーネット選手は、ストーリー上、新日の中でどう使いたいのかがよく分からなかったが、新日本と揉めて、新日の悪口を週刊プロレスの紙上で言い出した時の顔はすごく良かった。ジョシュ選手も二枚目で強く愛想がよくインタビュアー受けも良い選手だ。つまり、典型的なベビーフェイス外国人選手だ。
写真はいつも笑顔か、ワザと怖い顔をしているかどっちかの二種類しかないワンパターンだったが、週刊プロレスに載った顔写真は、一つは演技じゃなく本気で怒っている顔で、素の表情を撮られるのを嫌がったジョシュがカメラに背を向けている。もう一つは、上目遣いでカメラを覗き込み、あくまで冷静に、しかし厳しく説得する知的な顔だった。アメリカの理想的な父親が、5歳の息子のいたずらを、相手の言い分を聞きながらも冷静に叱っている。そういう表情だ。5歳の息子に「君の手の内は全て見え透いているのだよ。嘘をつかずに、本当のことをパパにしゃべってごらん」と言っている顔だ。いわゆるヒールではないが、物凄く怖い。恐怖というより畏怖・威厳がある。格闘技の実績やプロレスの知識を豊富に持ったジョシュが大人の立場から、子供の読者に言い聞かせている構図だ。PRIDEでの実績云々抜きに、新日本とのトラブルを公にすることで、使い道のよく分からないベビーフェイスから、迫力のあるトップヒールへレスラーとしての価値を上げたと思う。
メディア露出せずに、良い試合をするだけなら、外国人レスラーはノアへ行ってもいいわけじゃん。新日に出る以上、メディア露出することが前提になると思うし、そのとき、どう露出すれば人気が出るのかという、メディア戦略をいまの新日が持ってないことを前提にしなきゃしょうがないわけじゃん。30年前の新日ならメディア戦略もあっただろうけど、いまは長州現場監督がベビー・ヒールの区別やストーリーラインのあるプロレスが嫌いで、雑誌に載る写真はオフショットで、インタビューはプライベートの雑談になってるわけで。その状況下で、マット・モーガン選手はマグレかもしれないけど、昔の怖い外国人ヒールの雰囲気が出てて面白かったと思う。