雑談の不可能性

雑談をするというのは難しい。
例えば、公園で乳幼児を遊ばせているときのお母さん同士の雑談はどのような話題が適切なのか?
・家の子が、しゃべれるようになったとか、ハイハイできるようになったとかいう発育状況。
・この子は何歳ですか?お名前は何ていうの?といった相手の子供の話。
・離乳食の作り方がどうこうといった家事の話。
・姑がどうこう、夫がどうこうといった人間関係の話。
・お昼のメロドラマの話。
・誰と誰がくっついた別れたというワイドショーの話。
・政治経済の話。
この中で何が適切な話題なのか?
例えば、子供の話をした時に、同じような時期に生まれた子なのに、ウチの子の発育が、隣の子に比べて早いとか遅いとか言って真剣に悩んでノイローゼーになる奥さんとかいるわけだ。そうすると、お互いの子供のことは言わない方が良いとなる。家事の話や家の中の人間関係の話にしても同じで、自分の亭主のボーナスが隣のお宅と比べて多い少ないで揉めたり、家事の話一つとっても、有機野菜で食育が良いとか、冷凍食品を使って調理の時間を短縮して、そのぶん他のところへ時間を使った方が良いとか、私立の幼稚園にかようためのお受験用の英才教育は何が良いだとか、私立やお受験なんて馬鹿げていて、やっぱり大自然に触れ合いながら伸び伸びすくすく教育が良いだとかで、揉めたりもする。

結局、自分達の話はせずに、テレビの話をするというのが、距離感的には無難であったりするのだが、中にはお家の方針としてテレビのない家庭というのもあるわけです。こうなってくると、いよいよ共通の話題を探すというのが困難になってくる。

海外での生活が長くて、日本の芸能人をまったく知らない。テレビも新聞も見ない。でも、自分が育った国の芸能人には詳しいし、その国の芸能ゴシップに関しては、その国のメディアを通して知っている。

沈黙が長いと気まずくなるし、一緒にいる時間はなんだかんだで結構長く、義務のようにしてしゃべろうとはする。

古伊万里ってどうなの?」
先方は日本に長く住んでいる私に合わせて、私のしゃべりやすい話を振ったつもりである。が、正直、古伊万里と言われてもわからない。古伊万里の何についてしゃべれば良いのかさえもよく分からない。会話が止まる。

先方は冗談が好きで、自分をユーモアのセンスがある人間だと思っている。人間誰しも自分とセンスの合う人間としゃべりたいと思うものだ。
「**って++だよね」
(**も++も先方の育った国の固有名詞。恐らく芸能人か何か)
「ですよね。自分も前々からそう思ってたんですよ。」
「は?全然分かってない。もういい。」
どうやら先方は冗談を言ったらしい。ギャグで言ったことを真に受けて、同意したので機嫌を損ねた。いまのは笑う場所だったのだ。
雑談への道はかように厳しい。