習近平目線で考えるアメリカが取るべき政策

習近平国家主席になる時期の中国は、自由主義諸国に対する開放政策が進み、中国国内が資本主義化し、貧富の差が顕著になっていた頃だった。汚職を取り締まる明確な法律も整備されておらず、賄賂が横行し、汚職で得た資金の洗浄に、マカオやドバイのカジノが使われていた。次期国家主席汚職の取り締まりを行わなければいけない状況であった。それは必要な仕事であるが同時に、当時の権力者である、有力な政治家や経営者から恨みを買う可能性が高い仕事であった。

 

習近平が腐敗撲滅運動を行い、当時の有力な政治家や経営者を有罪にしていったときに、彼らの多くは懲役8~10年であった。習近平の任期である2期10年が終わる頃に、丁度、かつての権力者が出所してきて、権力の座から降りた習近平に仕返しをするというシナリオを避けるために、習近平は任期の撤廃を行ったし、胡錦涛などの長老達もそれに同意した。腐敗撲滅運動によって、中国本土からカジノに流れる資金は統計上減っており、それは一つの成果だと言える。

 

権力の座から降りたときに、暗殺される、もしくは無実の罪で投獄されるのをおそれた。暗殺で言えば、2015年8月12日の天津浜海新区大爆発事故には習近平に対する暗殺未遂事件であったという噂が流れていて、当初、習近平が乗る予定であった車両が事故で吹き飛んでいる。事前に情報を得た習近平が移動を鉄道から自動車に切り替えて難を逃れたと噂されている。

爆発の実行犯は中国北部の少数民族だと噂され、それが北部のイスラム教徒弾圧につながっている。そもそも暗殺が失敗であったのかもあやしくて、爆破テロを起こす側からすれば、権力者を殺すことが目的でなく、権力者を脅して自分の意のままに操ることが目的であった可能性もある。殺してしまったのでは、次期主席が自分の意のままに動くとも限らない。殺さずに、暗殺のデモンストレーションを見せることが目的であった可能性が高い。

また、韓国の大統領が引退し前大統領に成ると、汚職で投獄されるというパターンが出来上がっていて、そこに対しても習近平が関心を持っているという噂はある。

 

当初の予定であれば、習近平は2期10年を務めた後、アメリカのチャイナタウンに移住して政敵からの攻撃を逃れる予定であった。腐敗撲滅運動で多くの権力者、政治家や経営者を投獄した以上、引退後、中国に住むという選択肢は、ありえない。その際の亡命先、移住先を選ぶ上で重要なのが、暗殺をされない国、中国政府からの犯人引き渡し要求に、応じない国が求められる。ヨーロッパ/EUだと、ロシア政府に逆らった元KGBや元政治家、ジャーナリストなどが、EUに亡命後、亡命先の欧州で暗殺され、犯人も証拠も挙がってないケースが多々ある。次期中国政府から汚職などの疑いを掛けられ、引き渡し請求されたとき、中国と親密な社会主義国では、次期中国政府の要求を呑んでしまう可能性が高い。次期中国政府に逆らえるぐらいの強い国で、暗殺防止が可能な国となると、限られてくる。

 

習近平の腐敗撲滅運動によって、逮捕されそうな立場に成った経営者たちがアメリカのチャイナタウンに大量移住して、アメリカの主要なチャイナタウンが反習近平派の牙城となったのが、習近平の引退後のプランをぶち壊し、習近平を絶望させたことは予想に難くない。国家主席の任期延長は、郭文貴によって作られたとも言える。

 

暗殺と言えば、金正恩の兄である金正男がマレーシアで暗殺されたとき、習近平にしては珍しく、感情的な言葉で生理的嫌悪感を表明している。あの暗殺は北朝鮮政府が指示を出したとされているが、中国政府がボディガードを付けていた以上、自由主義諸国から経済制裁を受け、中国政府から経済支援を受けている北朝鮮が単独で判断したとは考え難い。社会主義経済圏において、中国政府の意向に逆らえるだけの大国ロシアのバックアップがあったと考えるのが自然だろう。あの暗殺によって、中国政府が付けるボディガードが役に立たないことが判明した。習近平にとって、ロシアが本気を出せば、習近平を殺せるというサインにも成っていたはずだ。

 

習近平からすれば、任期を撤廃する以上は、次の選挙でも勝ち3期目を獲得しなければならない。慣習をくつがえしての3期目を獲得するには、通常通りの選挙でなく、圧倒的な人気と得票数が欲しくなる。中国には民主的な普通選挙はないが、選挙権・被選挙権が制限された制限選挙は存在する。選挙権を持つのは共産党員と中国人民解放軍に成る。選挙で勝ちたいと思えば必然的に、共産主義軍国主義路線を選ぶことになる。習近平個人の思想信条と無関係に、選挙制度上、勝つためにはそうせざるを得ない。

 

比較法学34巻1号「人民代表大会代表選挙の問題点」P6L2より

https://www.waseda.jp/folaw/icl/assets/uploads/2014/05/A04408055-00-034010267.pdf

「軍人代表は全国人民代表大会には265人であり、全人代代表総数の約9%を占め、軍人が占める全国人口総数における比例と明らかに不均衡である。」

 

軍事費を増やすのが、国家主席にとって一番安く買える票となる。軍が派手な活躍の場を外に求めたときに、制御しないのが次の選挙の票となって表れる。

 

wikiの「全国人民代表大会」より、概要の5行目から

全人代は、省・自治区直轄市特別行政区の人民代表大会および中国人民解放軍から選出された代表(議員)によって構成される」

地域の代表とは別枠で、軍の代表が座る議席数が確保されている。

 

 軍が国のトップを決める議会の9%の議席、票数を持っている。国のトップになるのに必要な得票率が50%だとすると、その内の約5分の1の固定票がある。習近平軍縮会議に出席しない理由の一つは、この辺りにある。

 

習近平が2022年で2期10年を満了し、次の政権に禅譲した場合、習近平政権よりも、外交やウィグルなどに関して、柔軟な対応をする政権が生まれると予測される。特に習近平派でなく胡錦涛派の政権が生まれた場合、その可能性が高い。仮に習近平が次の選挙を戦わず禅譲するなら、共産主義軍国主義寄りの政策を実行する動機が習近平の中で無くなる。自らの良心に基づいた政策を実行できるのであって、中国共産党人民解放軍に配慮する必要が無い。

 

引退後の習近平が安全に暮らせる移住先を見つけることが、アメリカの国益となるだろう。中国国外で、中国と変わらない暮らしができるチャイナタウンは世界中にある。その中で、1970年代以降に中国から外国へ渡った新華僑によって作られた比較的歴史の浅いチャイナタウンが好みのようだ。中国が共産化する前の清王朝中華民国時代の旧華僑が作った町は好みに合わないらしい。日本で言えば、横浜中華街よりも、赤羽の方が良さそうだ。

 

第二次世界大戦の敗戦時、日本は無条件降伏をしたが、水面下では天皇家に対する命の保証はしたと言われている。東条英機など、当時の総理大臣に対して責任を追及したが、天皇家はその対象から外れた。米中冷戦の中においても最低限の譲歩は必要だと思われる。