五百羅漢図に対する期待

見る前の期待が高すぎた。カオスラウンジラジオで黒瀬陽平氏が五百羅漢図を絶賛していたので、村上隆個人の実存を掘り下げた作品だと思って見に行ってしまった。

村上隆は一億ドル(約110億円)売り上げていて、存命美術家としては日本一の売り上げを誇っている。
参照 http://www.fashionsnap.com/news/2012-02-12/the-15-richest-living-artists/
初期の頃はKO2やマイ・ロンサム・カウボーイに代表されるような、エロフィギュアを売って有名に成り、オタクからバッシングを受けた。
村上隆氏の著作を読んでも分かるのだが、そもそも萌えとかカワイイとかに興味がなくて、売れる物・金に成る物を作ろうとして作っただけで、萌え絵が描ける人でも無い。

美術批評家の黒瀬氏は基本、実存的な物を高く評価する。その作家個人にとって重要なこだわりを掘り下げているかどうか。自分個人にとって興味はないけど、こういう物を作れば周囲が評価してくれるし、売れるから作るというスタンスの物を嫌う。

映画「めめめのくらげ」インタビューhttp://www.cinemacafe.net/article/2013/04/26/16757.htmlを見ると、つげ義春水木しげるが出てくる。エロやカワイイではなく、気持ち悪い怪談漫画を描いていた作家だ。

今回の五百羅漢図は「めめめのくらげ」以上に水木しげる寄りで、ガッツリ怪談やホラー、幽霊画や地獄絵図の系統だと想像していた。

若くて貧しい時期に、売れるために作りたくもないエロフィギュア作って、百億円ほど売り上げて、財も名声も得た。その美術家が、急に赤字覚悟で売れもしない気持ち悪い地獄絵図を描き出して、周囲のスタッフをあわてさせた。みたいな噂を聞きつけた。ゴシップとしては一番面白いパターン、きれいな世界を描いて財を成したアーチストが、自らの集大成として真逆の気持ち悪い世界を描いて、訳の分からないことに成ってしまう。モーツァルト的な壊れ方していたら面白いと期待して見に行ったら何か違った。

水木しげる的な白黒の気持ち悪い絵でもなく、カラフルで陽気な絵だけど、かといって美しいファンタジーの世界でもなく、中途半端。地獄を描いたホラーでも、天国を描いたファンタジーでもなく、かといって地上の現実を描いたリアリズムでもなく中途半端。