中山いくみさんの絵

自分の中の性的嗜好の話をすると、眼鏡フェチの要素があって、フレームの美しさもあるのだが、特にレンズの歪みに対して、性的興奮を感じる。ガラスやレンズの中を光が透過し屈折し、その内のいくつかは表面を反射して散っていく。そういう特性を持つ物として他にはプラスチックやビニールもあるが、ガラス以外だと水が好きで、噴水や小川に対しキラキラした感情を持つところがある。


中山さんの絵の主題は水滴と反射で、水とガラスと鏡が、画像に対するエフェクトとして多用される。現状、中山いくみhttp://nakayamaikumi.web.fc2.com/というブランドに期待される絵と、中山さん自身が描きたい絵がズレていて、そこが難しいというか、中途半端に間を取ると描きたい絵でもないし、期待される絵でもない、詰らない絵になってしまう。描きたい絵を描きたいように描けば、それはそれで描き手の熱量が伝わるし、過去に評価された絵の続編であれば、それはそれで一定の需要はあるのだが、何を描きたいのかや何を期待されているのかが中山さんの中で消化されていない感じがする。


中山さんの受賞歴で一番大きいのは東京ワンダーウォール2011で、受賞の際、2012年に「中山いくみ展 見えない壁―invisible wall」をやっている。当時の新聞記事http://ikumiart.exblog.jp/iv/detail/index.asp?s=17686136&i=201201/26/49/b0235549_15121660.jpgを読むと分かるのだが、ワンダーウォール(不思議な壁)という公募のタイトルと、個展のタイトル「見えない壁」が掛かっていて、絵を覆う額縁のガラスが存在していないのに、絵の中にガラスの反射を描いている作品が、そのまま公募展のタイトルになっているという言葉遊びの面白さが受賞理由の一つになっている。絵の技術はもちろんだが、言葉遊びの要素も現代美術の世界では重要で、現代美術二等兵さんの駄美術なんて、すべてが駄洒落になっている。中山いくみさんは会って話すと言語能力があまり高くなく、言葉遊びが出来ない人でもあります。


美術を言葉で紹介する批評家側は「見えない壁」=ワンダーウォールとして反射作品を推すのですが、中山さん自身は水滴作品を推します。いっけん似ているこの二つですが、水滴作品は曇りガラスに映った自画像がhttp://nakayamaikumi.web.fc2.com/works/w_waterdrop.htmlスタートで、ガラスの透過を描くというより、曇った鏡に近い。水滴がついて曇った鏡に映った自画像を描くのだと、見えない壁というタイトルと結びつかない。壁としてのガラスの厚みが描かれておらず、自分が写った写真をパソコンに取り込んで、フォトレタッチで白いフィルターを20%ほど掛けてボカした絵に、水滴入れて絵を描いた感じで、絵のモデルになっている自家製の写真の解像度が低い。フィルターでボカした結果、全体的に解像度が低い絵になっている。フォトレタッチを使わずに、実際に鏡を風呂場に持っていって水蒸気で曇らせるなり、霧吹きで水滴を付けるなりして、リアルなガラスの曇り具合や水滴による光の屈折をhttp://sabbath28.blog49.fc2.com/blog-entry-2.html描いているならともかく、フォトレタッチで白いぼかしを入れて、水滴のついた曇りガラスhttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/a9/093ccea55b3de21957afbfa08d7b8fb7.jpgですというのでは、原画となる写真の質が悪いと感じる。


見えない壁という以上、実際には存在していないガラスの映り込みを描いた反射作品http://nakayamaikumi.web.fc2.com/works/galleriffic_images/reflect/o_reflect1.jpgが東京ワンダーウォールの受賞作なわけです。丁寧だけど古風で退屈なモチーフを描いた絵の上から、ガラスの映り込みを描いていて、そのガラスが見えない壁になって非常に面白い。でも画家の立場になると、細密な絵を時間と手間暇掛けて描いた上で、さらにその上に絵を二重に描くのは、一度描いた絵を自らの手で汚す行為なわけで、本人としてはすごく傷つくわけです。描きたくない物を無理して描いてもクオリティが下がるだけなので、光の屈折や反射を描くのをやめて、エフェクトなしのストレートな絵を描いても、それなりのクオリティがあるし、面白いと思うのですが、間を取って水滴作品を描いた時の、絵の元となる写真の質が、レンズや水滴の光の屈折に反応する眼鏡フェチの私からすると、この写真じゃ抜けないというクオリティで、そのジャンルのフェチである以上、解像度の面で一定の水準を求めてしまう。水滴や水蒸気を撮影するのはプロのカメラマンでも難しくて、防水カメラ使ってレンズを曇らないようにして、流れ落ちる水滴に対して、どのシャッタースピードで撮るのか?水滴の輪郭がくっきりと出る速いシャッタースピードを使うには、大量の光が必要で、照明や反射板を使うことになるし、するとどの角度から、どのような色温度の照明を当てるのか?正面からだけだと平べったい画面になるので上下左右からなるべく光を当てて立体的に撮りたいし、そうすると照明の数だけ機材が必要になるわけで、といった困難が予想されるわけです。眼鏡のレンズの歪みや厚みに反応する自分としては、ガラスを描いているのにガラスの厚みhttp://www.ipros.jp/public/product/image/e26/2000048806/IPROS2616952848316332280.jpgが感じられない絵には共感が薄くなってしまいます。