B&Bの無口な方

漫才好きにとって、世間で面白いと言われている漫才が面白いのは当然で、俺ぐらいになると詰まらないと言われている「うなずきトリオ」の面白さも主張したくなる。1980年当時、漫才ブームでツービート、B&B紳助竜介の面白く無い方、黙って相方のトークにうなずいているだけの人を集めて、うなずきトリオが結成されていた。今で言うウーマンラッシュアワー中川パラダイスのポジションです。


当時、「笑っていいとも」の前身となる「笑ってる場合ですよ」という番組があって、B&Bがレギュラー司会者で、いいともみたいな番組をやっていた。ゲストに20代半ばのアイドル女優さん、今で言う堀北真希ポジションの人が映画の宣伝で来て、15分ほど生放送でB&Bとフリートークをする企画でした。B&Bは一人で面白いことを早口でまくし立てる島田洋七と、その話をニコニコしながら聞いているだけの島田洋八のコンビで、洋八は面白いことなんて一切言えない無口なキャラです。


若い女優さんをゲストに迎えての生放送中、座りトークで面白い方の洋七が居眠りしてしまいました。当時のB&Bのスケージュールだと3日寝てないとか普通だと言います。普通なら起こしますが、その時、洋八さんはやさしく相方を寝かしたままにして、自力で女優さんとのトークを盛り上げようとします。女優さん的にも、初対面でいきなり眠られて、失礼だなという気持ちも多少顔に出ています。口下手な洋八だけじゃ心もとない、不安な気持ちでいっぱいです。客席にも放送事故感が漂います。


この映画はどんな映画なんですか?撮影中の面白いエピソードはありますか?洋八さんはインタビューしますが、堀北真希ポジションのアイドル女優さんが、バラエティで爆笑取るような面白いことを言うわけがない。CMのイメージキャラクターでもあるわけで、事務所やスポンサーから、当たり障りのあることを言うな、大人しく黙ってニコニコしてろと言われているポジションです。この映画は、どんな映画なんですか?


「監督は誰々で、主演が私とアイドル俳優の誰々さんで、どこどこの配給会社の純愛映画です。」


マニュアル通りで笑うポイントが一箇所もない。80年代のアイドルは、今以上に事務所がマニュアル管理だったので、マニュアルに無いことを答えると、マネージャーさんが出て来て、カメラ止めて、今の所カットして、みたいな世界です。面白いことを言ってはいけない世界です。


「内容は映画館で観て、ご自身の目で確認して下さい」


こんなトークですよ。放送事故スレスレ、笑い一切なしになったその瞬間、洋七さんの話を笑いながら聞いているだけの芸の無い洋八さんが大声で「どっひゃーー、すごいでんなぁーー、そんなことあったんですかーー、オモロイでんなぁーー。」言いながら、両腕を広げて床から転げ落ち、床をゴロゴロ転がりながら、腹を抱えて爆笑し始めました。


監督と初めて、お会いしたのが、撮影初日だったんです。


(両手振り上げて、目をむいて驚きながら大声で)ほんまでっか、そんなこと、ありえますんか!


撮影初日が予報では雨だったのですけど、当日になって晴れました。


(イスから転げ落ちて、床にバンバン頭をぶつけながら)うわぁーーー、信じられん、そんな奇跡がありえるんやぁーー、運命、運命ゆう奴ですか!


監督は、僕は晴れ男なんだよと言って下さって。


(会場ステージを端から端まで走り回りながら、大声で叫ぶ)嘘やーー、ありえへんーー、そんなオモロイことが起こるなんてぇーー。


会場の客席大爆笑。女優さんも苦笑い。実際、その女優さん何一つ面白いことを言ってないんですよ。なのに会場爆笑。純粋に聞き手のリアクションだけで、笑わせる意図も無い話を爆笑に持って行った。当時、幼稚園の年長組だった俺は、洋八さんの面白さ、洋七さんに対する優しさに感動しました。