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落語のかわいがり

相撲業界で「かわいがり」という習慣があって、先輩が後輩に稽古という名のシゴキを加えるのだが、落語の世界でも似た行為はある。師匠のそばで、付き人をしている弟子の中で、それなりに才能があって、そろそろ独り立ちできそうな付き人を連れて、寄席の楽屋に入る。楽屋には何人かの落語家さんがいて、同期の付き人やお弟子さんもいっぱいいる中で、師匠が別の師匠と話しながら、付き人を呼んでこう言う「こいつ、面白いんだよ。この間も、**が++した話をして、爆笑になったんだよ。おい、○○(付き人の名前)あの話、もう一度してやれ。」話のオチは「**が++した」だから、既に師匠がオチを言ってしまっている。同じ話をここでやっても受けない。でも、師匠の命令は絶対だから、その話をしないわけにはいかないし、別の師匠や同門や他流派の付き人・弟子が大勢いる前で、恥をかくわけにもいかない。なんとかディティールを膨らませて、間に細かいボケを足しながら、必死に話すが、最後のオチが見えている以上、笑いとしては微妙になる。師匠から「いま、うちの付き人の中で一番面白い奴なんだよ」と紹介され、高いハードル・高い期待値の中で、プロの噺家相手に小話して、滑って恥をかいた。普通に考えれば、話のオチをタイトルに持ってくる師匠が悪いわけで、この状態でウケろと言うのが無理。


次の日も、師匠のお付きで寄席の楽屋に行くと、また師匠が別の噺家さん相手に「こいつ、すげー面白いんだよ。この間も**が++した話で、会場を爆笑させていたから。おい、○○、あの話をもう一度してやれ」と言われる。で、師匠に言われて、その話をするけど、昨日も同じ人たち相手に、同じ楽屋で、同じ話をしているわけで、同じ話の二度目になると、昨日以上にウケない。三日目、師匠の付き人として楽屋にお邪魔すると、また同じ話を振られる。三日目ともなると、さすがに弟子も準備しているわけで、要は一度ウケた「**が++した話」の続編・後日譚を創作して笑いを取れということだと、弟子も気付く。三日目にきちんとネタを作って、寄席の楽屋を爆笑させたら、晴れて付き人卒業で一人前の噺家になれる。四日目、五日目になっても新ネタが作れない、作っても面白くないだと「力量がないから、お前一生付き人な」という世界。


落語出身の明石家さんまは、落語のかわいがりをTVの前でやっている。明石家さんまは「俺たちひょうきん族の第一回放送は、第三話なんだ」と言う。ひょうきん族は、ドリフと違って、お客さんを入れずに撮影スタッフだけでコントを撮っていて、番組に入る笑い声は、スタッフの声のみになる。スタッフを笑わせないと笑い声が収録されない。ひょうきん族はカメリハやドライ含めて二回のリハーサルをやって、本番収録になるのだが、明石家さんまはリハーサル含めて、三回スタッフを笑わせたいわけで、同じネタを三回やるわけにはいかない。一回目のリハーサルのネタに、二回目はボケを足して、三回目のネタはさらにボケを足す。一度目のリハーサルを振りに使って、二度目、三度目はそれを崩して、笑いにする。でも、TV見ている人は三度目に撮った本番のコントしか見てないから、振りが利いていないし、崩しすぎていて元ネタが分からない。本当は一度目のリハから見せるのが一番面白いんだと言っていた。

https://www.youtube.com/watch?v=DamV5S3L_9g#t=1m50s
2時間番組6時間やる人間。1分50秒参照。収録の2倍のリハーサル。

https://www.youtube.com/watch?v=BKwt2MJz4Y0#t=6m0s
明石家さんまによる生放送の「かわいがり」映像。サタデーナイトライブ#5後半VTR。6分から13分30秒参照。

https://www.youtube.com/watch?v=Sgi5YhtZ24A
芸人の即興バトルに半素人が混じると、こうなるという悪い例。

痛快!明石家電視台でナイツに無茶振りした映像もすごかった。当時ナイツはM-1グランプリで、準優勝。優勝したノンスタイルより会場の笑いを取っていたし、実質的に優勝だという声も多かった。明石家電視台に出てナイツがしゃべる


「これまで劇場でずっとやってきて、TVに出たいTVに出たいと思いながら頑張ってきたのが、一夜にしてTVのオファーが来るようになって、いいとものゲスト、たけしさんの番組のゲストに呼んで頂いて、昨日はとんねるずさん、明日はダウンタウンさんという、いままでTVでしかお会いしたことのなかった方々と共演させて頂いて、ここ二週間は夢のような毎日です。」


それに対して、明石家さんまの放った一言が「それで、誰が一番オーラなかった?」


無茶振りも良いところでしょ。初めて色んなお笑い番組に出させて頂いて夢のような毎日ですという話に対して、そのメインMCの中で、オーラないの誰?という質問は、質問自体がおかしい。そうは言っても、腕のあるナイツですから、漫才師協会の話や内海桂子師匠のおもしろ話をしながら、ちゃんと笑いを取って、仲の良い諸先輩方の失敗談を話しました。普通ならそれでOKでしょう。そこにさんまさんは「そんなんええから、誰がオーラなかった?初めてテレビ出て、楽屋あいさつ行ったら、テレビと違ってオーラない人いるやろ。」さんまさんは、ナイツを追い詰めます。ナイツの台本を書いてない方の土屋さんが、さんまさんに相槌を打ちながら時間を稼ぎ、その間、台本作家側の塙さんが厳しい表情で必死に返答を考えます。60秒ほど考えたでしょうか、コンビじゃなくてピンなら完全にアウトの時間です。ある種、あきらめと意を決した表情の塙さんが「さっき、廊下でお会いさせて頂いたさんまさんも、大概にオーラなかったですよ。」ナイツ的に限界だったんでしょうね。露骨に不機嫌な顔をする明石家さんまと、誘い笑いで何とか乗り切ろうとするナイツのバトルが、寄席の楽屋のガチンコバトルをカメラの前で見せていて、迫力ありました。