握手会

AKBで有名になった握手会だが、出版業界でもサイン会という名前で昔からあって、そのやり方も割りとマニュアル化されている。書店やどこかのイベントホールで、その著者のトークショーがあって、その後、廊下でサイン会があるのだが、俺は黙ってサインしてもらうだけかと思って並んでいたら、向こうから色々話しかけて来る。ファンの人があこがれの著者と直で話せるのが売りらしい。こっちは自閉症で人としゃべりたくないから本を読んできた人生で、対面でしゃべるのは苦痛でしかない。黙っていると向こうから
「お名前はなんて言うのですか?」
と聞いてくる。本名を言うと、グーグル検索すれば職場の公式HPで某部署の人間として顔写真と名前が出てきたりして、色々面倒くさいから
「RP7600i」
と型番的な匿名性の高い名前を言ったわけ。そしたら、その著者はいきなり俺の本名をサインしだして
「**さんへ」
と書き出した。あのねぇ。怖いよね、気持ち悪いよね、知っていても知らない振りするのが礼儀だよね。いや、その著者のファンクラブ的なツイッターに加入しているから、個人情報漏れるのは分かるが、だとしても本名書くのまずくね?職場特定されているってことじゃん。
「それやっちゃいけないことだろ」
って言ったら
「古本屋に流出しないように、買ってくれた方の名前を書くように出版社に言われているんです」
なんだそれ。俺、人と接するの無理じゃん。古本屋に持って行ったら、古本屋の店員と口きかなきゃいけないじゃん。
「そんなことするぐらいなら今すぐここで本捨てるわ」
と言って、その場でサイン本をゴミ箱に捨ててきた。大体、人と話せる奴が本なんて読むわけ無いだろ。なに勘違いしてるんだこいつ。


ムカついたから、2ちゃんねるで散々人の悪口書いて、地下アイドルの握手券付きのCD買って、ご当地地下アイドルの握手会に行った。アイドルの握手会でファンが何をするかと言うと、アイドルと直接しゃべるわけだが、大体は
「応援してます」

「頑張ってください」
じゃなくて
「きもいんだよ、お前」
「死ねや、ボケ」
などの罵詈雑言を浴びせて傷つけて楽しむのが、俺たち2ちゃんねらーのマナーだ。AKB総選挙人気No1まで上り詰めたのが、ブサイクキャラでブレイクした指原なのも当然で、こちらが傷つける一言を発しても、ちゃんと傷ついたリアクション芸を披露した後、言葉でキレイに切り返す機転の利き方が、ほめられること前提の平凡なアイドルとは一味違う。俺は本気で傷つけたいので、握手会で悪口を言われなれてない低年齢地下アイドルの**ちゃんに狙いを定めて握手会に行き
「**ちゃん、大好きです。いつも**ちゃんでオナニーしています。**ちゃんでヌクと気持ち良いです」
と罵詈雑言を浴びせかけてやった。そしたら
「いつも応援ありがとうございます」
と笑顔で普通に返された。くやしいのでその場でもう一枚握手券つきCDを買って、二周目の握手に突入した。
「オナニー気持ち良い。オナニー最高!」
とわめいて係員に取り押さえられて、退場させられる予定だった。二周目の握手で即席会場のカーテンをくぐったら、かなり離れた位置からアイドルの子に
「あっ、オナニーくんだ。二周目来てくれたの、ありがとう」
と言われて、自閉症の俺は、何も言い返せなくなって、うつむいた。悔しくて、胸が熱くなって、我慢したけど、目から涙があふれ出した。握手しながら
「オナニーくん、どうしたの?涙は、心の精液なんだよ」
と言われて、死にたくなった。マニュアル的に、常連さんの顔を覚えて、ニックネームを付けて、名前で呼んであげる。というのがあるらしい。さらに、ファン一人一人の顔とニックネームを全部覚えるのは大変だから、誰にでも付けれる名前は汎用して、何人かを同じニックネームで呼ぶと楽になるのもマニュアルらしい。ツイッターでそのアイドルのファンクラブ的なグループに入っているが、そのツイッターIDと「オナニーくん」の名前と、自分の本名、職場の写真などが全部つながって、職場で
「オナニーくん」
と呼ばれるのが嫌なので、そのアイドル関連のグループからツイッターを外した。