全日本プロレスの特徴

今の日本のプロレス界で、プロレスラー専業で食える団体は、新日本プロレスだけ、と言っても過言ではない。個人で食える食えないはあっても、団体でとなると、新日本プロレスぐらいかなぁ。


かつては新日とタメを張った全日ですが、待遇面で新日と同じ条件を出せない以上、新日で通用しない選手しか採用できない。今の新日は、セルフプロデュースが出来る選手、脚本演出出演を全部一人で出来る選手しか基本通用しない。音楽で言えばシンガーソングライターですね。


対する全日は、演者と脚本家の分業制度で成り立っていて、体がデカくて身体能力が高い、トップアスリートとしての実績もある選手と、身長が低くて、身体能力も格闘技実績もイマイチだけど、脚本家としての実力がある選手に分かれていて、タッグマッチは演者&脚本家で一チームになる分業制度です。当然、シングルの試合より、タッグマッチの方がクオリティーが高い。音楽で言えば、歌って踊るアイドルと、それを支える作曲家作詞家などの作家チームの分業制度。新日でジュニアヘビー級(100キロ以下のプロレスラー)と言えば、跳んだり跳ねたりのプロレスをする人を意味しますが、全日でジュニアヘビー級と言えば、(過激な言い方をすれば)脚本家を意味したりします。


武藤選手自身が、主演武藤・脚本蝶野の分業制で、タッグ戦線を盛り上げた選手だけに、全日旗揚げ時だと、KAZU選手・カシン選手、その後移籍組で西村選手と脚本家寄りの選手を抱えていました。片方でいまの全日には河野選手・鈴木健想選手・大森選手といった、WJ的な体がデカくてカリスマ性があって、脚本が読めなくて、会場の空気も読めない(アドリブ不可な)選手もいます。一人で全部やるには、体の大きさも含めた身体能力が足りない選手と、一人で全部やるには脚本の作成能力が足りない選手が組んだときの面白さは、新日の面白さとはまったく種類の違う何かです。


新日のプロレスは出塁率の高いアベレージバッターだとすると、全日のプロレスは当たれば飛ぶホームランバッターで、偶然面白くなったときの面白さは格別です。新日は一人で全部できる人達の集まりなので、選手間の言語がある程度共有されているのですが、全日の場合、朝から晩までスポーツをしているアスリートと、朝から晩まで本を読んで脚本書いての脚本家だと、経験を共有していない以上、言語も共有できないわけです。赤色という単語は赤色を見たことがある人にしか通用しないように、二次方程式という単語が二次方程式を解いたことがある人にしか通用しないように、トップアスリートにしか判らない筋肉の動きや心の動きがあって、脚本家にしか判らない脚本作成法があって、言語を共有しない二人が話し合って一つの物を作るときに、出来上がる試合の全体像は本人たち含めて誰も予想がつかないわけです。だって本人たちも相手が何を言っているのか正確には理解していないわけですから。試合を見ていると、脚本家の意図を演者が違う解釈で演じたのが判る場面が多々発生し、当然演者はそれが正しい解釈だと思っていて、でもそのまま行くと演劇的にはおかしなことに成ってしまうにも関わらず、最終的には全然別な方向で辻褄が合ってしまうなんてことが、発生するわけです。昔の新日で言えば、中西&カシンのタッグチームや、中西VS中邑戦みたいなものです。

・演者/脚本分業制
・タッグマッチ中心

もう一つの特徴として、特徴的な体つきの選手を集めている。
昔のプロレス団体みたいに、デブとチビとノッポとマッチョみたいなシルエットだけで誰か判るようなキャラ付けをしている。デブ(浜選手)、チビ(KAZU選手)、ノッポ(河野選手)、マッチョ(大和選手?)。たぶん、淵選手・武藤選手辺りの好み・経営判断だと思われる。KAZU選手も、それほどチビではないのだが、礼儀正しくかわいいキャラに設定されていて、より小柄に見えるような服装や態度・仕草が多い。欲を言えば、河野選手がよりノッポに見えるような動きが多ければ良いなぁと思う。現状、ヒジやヒザを折りたたんで短い距離で出す打撃、エルボーや膝蹴りが多いので、もう少しリーチを生かした動きがあればなぁ。