アメリカンスタイルとヨーロピアンスタイル

れいによって、プロレス話ですが、ヨーロピアンスタイルとアメリカンスタイルの違いについて、個人的見解で書いてみます。


プロレスは英語だと単にレスリングと呼ばれて、一応レスリングルールの興行という建前になっています。このレスリングルールって奴が、結構厄介で、オリンピックのアマレスルールも、毎回のように細かいルールが変更されて、2分3ラウンドだったり、3分2ラウンドだったり、ポイントの採点方法も年度ごとに微妙に変わったりします。さらに、地域ごとにローカルルールが違って、オリンピックレスリングですら、国内予選のルールとオリンピック本選のルールが違ったり、アメリカでも州ごとにローカルルールがあったりします。もっというと、参加者の年齢ごとに、小学生のちびっ子レスリングだと、けが人が出ないように、安全性の高いルールで行われて、年齢が上になるほど、危険な技も許容されるルールになり、お年寄り向けのマスターズリーグになると、また安全性を考慮に入れたルールになったりします。日本の相撲を英語で言うと、相撲レスリングで、韓国相撲はシムルレスリングで、中東にはオイルレスリングがあって、柔道はジャケットを着たジャケットレスリングだとか言い出したときに、日本発信のレスリングだけでも、柔道と相撲の2種類のレスリングがあって、ルールは明らかに異なっている。要はレスリングルールといっても、無数にルールがある。

アメリカで一番大衆の関心を集めるレスリングはカレッジレスリングで、カレッジレスリングのナショナルチャンピオンだったブロック・レスナー選手は、オリンピックアメリカ代表で金メダルを取ったカート・アングル選手よりも、アメリカ国内での知名度集客力は上だったりします。競技の勝ち負け、強さで言えば、オリンピック金メダリスト(オリンピックレスリング世界一)の方がカレッジレスリング全米チャンピオン(大学生限定レスリングでアメリカ一)より強いにもかかわらず、興行的な集客力だとカレッジレスリングの方が強い。


日本で言うと、高校野球の甲子園で活躍したスター選手の実力がプロ野球選手や社会人野球の選手より劣るにも関わらず、知名度や集客力では、パリーグのスター選手や社会人野球のスター選手より、上だったりするのに近い。


対するヨーロッパでは、カレッジレスリングより社会人レスリングが盛んです。カレッジレスリングと社会人レスリングでは、競技者の年齢が違います。18歳から22歳までが主流のカレッジレスリングと、24歳から35歳ぐらいが主流の社会人レスリングだと、年齢・キャリア・体力などが変わってきますし、下手するとルールも違ってきます。オリンピックの代表を決めるときに、大学生社会人混合の試合をするのですが、一般的に言って、立って組んで投げる動作は筋力がものを言うので学生の方が有利で、足の裏以外が地面に着いたグラウンドの状態で、上のポジションを取って押さえ込む寝技・グラウンドレスリングは知識や技術や経験がものを言うので社会人の方が有利です。


筋力で勝負する投げ技主体のレスリングは、トレーニング方法も、ウエートなどの筋トレがメインですが、グラウンド主体のレスリングだと、技術のある人とスパーリングをしたり、技術解説書を読んだり、他人の試合を見るとか、試合動画を見るなどして、情報・知識を仕入れる要素が入ってきます。選手の体つきも、投げ技の選手は筋肉が付いて体幹が太く、寝技の選手は、手足が細長くてリーチがあります。前者の体つきがヒクソン・グレーシー選手だとすると後者はホイス・グレーシー選手のような体つきです。レスリングは体重別でやるのですが、同じ体重なら、筋肉を付けて腕力勝負に行くのか、リーチを稼いでリーチ差で勝つのか、戦術によって体のシルエットが変わってくるわけです。


アメリカンレスリング−ヨーロピアンレスリン
カレッジレスリング−社会人レスリン
20才前後−30歳前後
筋力−技術知識経験
投げ技−寝技
馬場全日−猪木新日
講道館柔道−高専柔道


子供向けのちびっ子レスリングの場合、相手選手を投げると、投げられた子供が床に頭を強打するかもしれないし、手をついたときに、腕の骨が折れるかもしれないので、投げずに相手の背後に組みついたら勝ちというのが、アメリカのルールで、日本のちびっ子相撲で、投げを禁止して、土俵から押し出したら勝ちというのに近い。正式なオリンピックレスリングの場合、相手選手の両肩をマットに着ければ勝ちで、相手のバックを取る、相手をサークルから押し出すのは、一ポイントで、6ポイント取ると勝ち。第二次大戦前のレスリングは関節技があったが、けが人が出て危険だという理由で徐々に禁止されるようになり、関節を決めるというより、上から押さえ込む形での寝技が主流になっている。

UFC柔術の選手が下から関節を極めようとすると、客席から「卑怯だ」という野次が飛ぶ。レスリングでは両肩がマットに着いた状態で負けが決まるのに、負けた状態から攻撃してくるから卑怯だという理屈だ。柔術というのは、自分が両肩をマットにつけた状態からスパーリングを始める。不利な状態からスタートして関節を極めて逆転するのが柔術の基本だ。


警官やガードマンが暴漢に対して使う逮捕術は、利き腕に武器(刃物・銃)を持った暴漢相手に、武器を持った方の手首をつかんで銃口や刃渡りを人のいない方向へ向けさせ安全を確保し、次に手首を内側にひねることで、相手に背中を向けさせる。足を払って、相手が胸を地面に着けたら、両手首を背中に回して手錠をかけて終了する。桜庭選手の話によると、キャッチレスリングのスパーリングは、腕一本取られてバックを取られた状態からスタートする。柔術におけるマウントポジションを取られた状態からのスパーリングと同じで、アメリカンレスリングで言えば、負けが確定したバックの状態から逆転するのがキャッチレスリングで、柔術と同じくアメリカンレスリングの客なら「卑怯だ」と野次を飛ばすだろう。


アメリカンレスリングから見れば、寝技・関節に頼るヨーロピアンレスリングは卑怯な悪者の格闘技だ。逆に、ヨーロピアンレスリング=猪木新日系の客からすると、格闘技=関節技であり、関節技の知識・技術がない投げ技オンリーのレスラーは、格闘技(=関節技)を知らない素人で、筋肉を鍛えているだけのボディービルダーになる。寝技や関節技は色々と複雑で、技の入り方や技を掛けられたときの外し方を何パターンも覚えなければならず、技術解説書を何冊も読んだりすることになるのだが、投げ技オンリーのレスラーは、本を読むだけの知能がないお馬鹿さん・野蛮人、という扱いになる。アメリカンレスリング=馬場全日=武藤全日において、投げ技主体のレスリングが正義の味方で、寝技関節技主体の選手は悪者。ヨーロピアンレスリング=猪木新日において、寝技関節技の選手がベビーフェイスで、投げ技主体の選手はヒールという扱いになる。


この辺が分かると、新日のリングで(馬場全日系団体)ノアの杉浦選手がグラウンドのスパーリングで勝っても、ハッピーな感じがするのに、ノアで杉浦選手がグラウンドのスパーリングで勝ったら、悪役が悪行三昧しているようにしか見えない理由もなんとなく分かる。新日所属で投げ技主体の後藤選手と、ノア所属でグラウンドレスリングの杉浦選手が新日のリングで闘って、普通なら新日の選手が勝った方がハッピーエンドに見えるはずなのに、杉浦選手が勝った方がハッピーエンドに見えるのは、ファイトスタイルの問題だ。杉浦選手がアマレス風のスパーリングでバックを取ったり、上のポジションを取ったりするのは、格闘技の実力を示しているように見えるが、後藤選手が相手選手の協力がなければ決まらないような投げ技、投げる瞬間、あきらかに相手選手が投げられるために跳んでいる投げ技を多用して攻撃しても、後藤選手が強そうに見えない、むしろ裏でお金を渡してわざと負けてもらっている風に見えて、新日ファンの声援が杉浦選手により集中するという逆転現象が起きる。


ある程度、想像を交えて書くが、武藤全日が、力道山日本プロレス−馬場全日のプロモーターを引き継ぐ形で、力道山時代からの古参のプロモーターと仕事をしたとき、プロモーターが想像以上に相撲人脈の人たちで、相撲大好き・曙大好き、曙選手を常時参戦させるお金はないので、下位互換の選手を曙選手に紹介してもらい、浜選手を入団させた。試合後のプロモーターさん交えた打ち上げで、相撲取り体型の相撲出身選手がいるだけで、プロモーター大喜び。馬場全日系選手がそろって全日を出て作ったノアと武藤全日が、馬場全日の人脈を二分する形になったが、ノアの相撲出身選手、力皇選手が怪我で長期欠場&引退になったこともあり、相撲系プロモーターがごっそり武藤全日側についた。「馬場全日最高!猪木新日は敵!寝技関節技は悪者!立って組んで投げる、相撲最高!」で、船木選手に対する客席からの野次がひどくなり、馬場全日出身の渕選手が諏訪魔選手相手にグラウンドの試合をして、寝技・関節技も反則ではないことをアピールし、船木選手周辺への野次をもう少し控えるよう説明した。いま寝技=悪者という空気が一番ある団体でしょう。


IGFの澤田選手は、講道館柔道出身で、寝技は苦手っぽいが、猪木ファンが多いIGFで、いままで通り中堅どころのヒールで投げ技主体選手で行くのか、グラウンドの練習積んで、グラウンドでキャッチレスリングの桜庭選手、PRIDEの日本人エース桜庭選手と闘って、ベビーの日本人エースとして、IGFのトップ選手になるのか、分岐点だと思う。純プロレス(殺陣)と格闘技(柔道・レスリング・MMA)以外に、格闘プロレスというジャンルがあって、