プロレスの見方

あしたのジョー」という漫画がある。アニメ化もされていて、最近は実写映画にもなっている。ボクシング漫画なのだが、実際のボクシングでは出せないようなすごいパンチも出てくる。


このあしたのジョーに関して、ボクシングのルールやテクニックを知らずに見るよりもは、知った上で見た方が、より楽しむことができる。このとき

あしたのジョーは、本物のボクシングじゃなくて、作り話ですよ。なのに、ボクシングのルールが、どうとか、ウザくないですか?アニメなんだから、ボクシングの試合中に、合体ロボットが出てきて、目からビームとか出さないと、地味すぎて見てられませんよ。」

と言われたら、どうだろう。漫画の中で、腕が回転するコークスクリューという技が出てくるが、実際のボクシングにはない技だ。でも、ありえるかもしれないというリアリティーはギリギリ保っている。そこに、合体ロボットが出てきて、目からビームを出したら、ボクシングのリアりティーが損なわれてしまう。


プロレスにもそういうところがあって、フィクションではあるが、ルールのあるスポーツを描いていて、そのルールやルール内の技術を知って見るのと、知らずに見るのとでは、同じ物を見ても楽しめる度合いが違う。2000年頃、自分はプロレスのルール&技術を知る必要性に迫られていた。事情があって、プロレスオタクになる必要性があったが、プロレスのルールを知ることが、想像以上に困難であった。その理由を挙げる。

  • プロレス業界自体がルールや技術を伏せようとしている。
  • そもそもプロレスのルールや技術が単一ではない。

ルールや技術を専門家及び当事者が厳密に語り始めると、試合がフィクションであることが明確になるため、大手老舗の団体ほど、この話題に関して緘口令を引いている。また、陸上競技と言ったときに、短距離走・長距離走だけでなく、幅跳び・高飛び、槍投げ砲丸投げなど、複数の競技、複数のルールにまたがるジャンルを意味し、陸上競技をやっている人でも、そのすべてをやっている人、そのすべてのジャンルに詳しい人は稀で、多くの場合、陸上競技の一部しかやっていないし、一部しか知らない。プロレスというジャンル自体が、陸上競技と同じぐらい、漠然としたジャンルで、同じプロレスでも日本とメキシコとアメリカでは細部においてルールの違いがあったりする。もっと言えば、日本の場合、異種格闘技戦という言葉があったように、柔道・相撲・レスリング・空手・ボクシングなど様々な格闘技の技を見せ合う場として、プロレスが機能していたのも大きい。例えば、木村-力道山戦にしても、柔道家の木村が、相撲出身のプロレスラー力道山の空手チョップを受けていたりするように、柔道・相撲・レスリング・空手が入り混じっている。ある会場で、世界陸上を開催する時、百メートル走と砲丸投げが、同じ競技場の別コートで、同時刻に開催されることはありえる。でも、百メートル走のランナーと、マラソンランナーが、砲丸を持って、背面跳びをすることはありえないが、プロレスの場合、それに近いことが起きるので、どういうルールで何をやっているのかが非常に判りにくい。自分の見た限り、プロレスのルールは大雑把に4つほどのジャンルに分かれる。

ルチャはメキシコのプロレスで、コーナー最上段からバク転して、相手の体に体当たりするようなタイプの物。
オリンピックレスリングは、文字通りオリンピックの正式種目になっているレスリングで、アメリカのプロレスは、フィクションを前提にしながらも、オリンピックレスリングのルールの中で話を作っている。これはUFCも例外ではない。北米で格闘技の興行を行う時には、ボクシング&レスリング協会の許可を得て、協会からレフリーを派遣されなくては、格闘技興行を行なえない。選手の安全性云々という建前はあるにしろ、日本で言うと既得権益を持った監督省庁みたいなポジションにある。UFCは元々、グレーシー一族がグレーシー柔術を広めるために、ケーブルテレビ局と組んで始めたものだが、規模が大きくなる過程で、グレーシー一族が排除されて、ボクシング&レスリング協会に乗っ取られた形になっている。それに伴って、UFCのルールも、柔術を広めるためのルールから、レスリングを広めるためのルールへ変わっている。日本においてMMA=柔術であったのに対し、北米においてMMA=ボクシング&レスリングになっている。私はUFCを必ずしも真剣勝負だとは思っていなくて、その理由の一つに、オリンピックレスリングから、ショー化したプロレスを生み出したのも、全米のボクシング&レスリング協会だからだ。
キャッチレスリング。カールゴッチ-猪木の系譜で、関節技を主とする物。
相撲レスリング。ジャイアント馬場-長州力系譜。リング中央に立つ者が強く、その周囲を回る者は弱い。ロープ際やコーナーに追い込まれる選手は弱く、コーナーに相手選手を押し込んだ選手が強い。


あしたのジョーやロッキーがフィクションであるように、プロレスもフィクションだとして、そのフィクションの中で一定のルールに基づいた試合をして、勝ち負けが決まる。ルチャ系のプロレスは、勝敗があまり重視されず、華麗に空中を舞い観客を沸かせた方が勝ちという世界だが、他三つのプロレスの場合、台本で決まっているシナリオ以外のアドリブパートで、相手のバックを取ったら勝ち(アメリカンプロレス、オリンピックレスリング)、相手の関節を取ったら勝ち(キャッチ)、相手をコーナーに押し込んだら勝ち(相撲)。など、アドリブパートで、選手が自分の強さを示すやり方が複数ある。関節の取り方も、相手のひざの裏に手を回す方法もあれば、ルーテーズのようにダブルリストロックを極めるやり方もある。新日本プロレスの初3D映画を見ると、棚橋選手は地味に腕絡みを出して、キャッチ系のファン層にもメッセージを出しているように見えた。


体がデカくて、体重のある森嶋選手が、デカくて太いにも関わらず、側転からのエルボーや、場外へのトペなど身軽に空中殺法を出すのだが、馬場全日系の古参のファンがそれを見て
「(側転エルボーを出した森嶋選手に)何で自分から手を付くかなぁ」
「(場外トペに対して)何で自分から出ちゃうかなぁ」
と相撲ルール前提に話しているのを見て、少し苦笑した。