しんどい

別にね。過密なスケージュールで動いているわけではない。
四時間働いて二時間寝て、四時間働いて二時間寝て、
四時間働いて二時間寝て、三十二時間動いて十八時間寝る。
を繰り返すようなスケージュールを二週間続けざるをえない状況があって
紙の上では、寝すぎだ、休みすぎだぐらいの
余裕のスケージュールだったのが、
実際やったら不規則過ぎて体的にも精神的にも不健康だったというだけで。


そういうときは、普段なら対応できるはずのことも対応できない。
元職場の同僚で、職場辞めたあと性転換した人間に
近所のスーパーで後ろから声を掛けられて
振り向いたら、見たことがあるような無いようなシュールで不気味な映像があって
大声あげて取り乱してしまって、
スーパーのお客さんに変な目で見られるしさぁ。
以前、同じ人間に正面から声を掛けられた時は転換後だったが
普通に対応できたのに、いまは疲れているのか対応できない。
マジで怖い。隣に、元同僚の彼氏らしき人もいるのだが
その人の外見も怖い。ケミストリーのヤバイ方の人みたいな外見で
彼女を守ろうとするのか、こっちにすごんでくるのだが
お願いだから声を掛けないで欲しい。


つうかさぁ、いま俺、本気で愚痴りだしたらすごいよ。書いてはいけないことしか書かないよ。なんかさ、昔大学出てすぐの頃、新入社員ての?やってたときにさ。直属の上司に呼ばれて
「**課長がお得意先と会食するから、同行しろ」と言われて
まあ、社員だし、上司命令だし、職務だし、言うこと聞きますよね。
「会食と言われても、何をするのかも分からないし、仕事の話とかされても、私じゃ何も分からないですよ」とは言ったが、
「仕事じゃなくて、遊びだから。会社のお金で飲み食いできると思って行ってくれ」と言われて行きましたよ。
**課長は同じ会社だけど、部署も違うし、フロアも違うし、面識はないわけさ。廊下ですれ違って会釈ぐらいはしたことあるかも知れないが、どんな人かは知らないわけだ。**課長と自分では所属する部署も違うし仕事内容も違うから、仕事の終わり時間も異なるので、仕事が終わり次第、現地に行ってくれということで、都内のレストランバーみたいな所へ行ったわけ。
まあ、当時二十代前半の人間からすれば入った事も無いような高級レストランで、お得意先の二人と課長の三人は既に席に付いていて、私だけ一人遅れて空いている席についた。お得意先の二人は四十前後の女性で、従業員が全員女性という会社の偉い人であるらしい。おそらくは、うちの会社がその会社に接待兼プレゼンみたいな空間だと思う。
**課長は恰幅の良い三十代後半の男性で、当時の私から見れば十歳以上も年上で、役職も上だし、大人に見えるわけです。その課長がお得意先の女性に向かって
「もう、ナニこの子、超ぶさいく。ん〜、こんなメイクじゃダメッ!
 もっとね、女の子はきれいにならなきゃ」
とオカマ口調でしゃべりだした時は内心ビビった。
取引先のお得意さんに面と向かって「ぶさいく」と言ったことにビビったのか、オカマ口調にビビったのか、正直よく分からなかった。
言われた女性も
「そうなの。ファンデーションがなじまなくて。いい基礎化粧品ないかしら」
とか言ってるので揉めてなさそうだ。オカマキャラの人というのは女性にとって同性であり、気を使わなくても良い気楽な間柄で、かつ普通に男性から言われれば頭にくるようなきびしいツッコミも、許されるというお得なポジションになる。
ただ、当時二十代前半男であった私にとって、キャピキャピしたオカマ口調の三人の会話には入れそうになかった。俺だって色んな人間を見ているし、上司がオカマだからって、それでドン引きするような器の狭い人間ではない。なんとか三人の会話に入ろうと、
「グラスが空いたので、お注ぎしましょうか?」と言ってみるが
「いや、結構」と軽くあしらわれ。
やはり私も口調を変えるべきかと思い。
「なのよねぇ〜」
「わかるわぁ〜」
と相槌を打つが、ドン引きされ、結局黙ったまま一時間半を過ごす。
やはり、しゃべったことの無い口調でしゃべっても不自然さは先方に伝わるようだ。
会食も終わりに近づいた時、**課長がトイレに立ち、私も後に続いた。私が用を足していると、用事の終わった課長が去り際、ドスの効いた低い声で一言
「キミは黙って座ってれば良いから」
と耳打ちして出て行った時、心底恐怖を感じた。帰り際、課長に「車で送ってあげようか」と言われたが、断って一人電車に乗り、都心の街灯が遠ざかってゆく窓の外を眺めながら、僕は大人になれないかもしれないと思った。


高学歴で高収入で高い地位にある人達を見ていると、TPOに合わせて色んなしゃべり方、色んな接し方を出来る人が多い。自分を大人っぽく見せたり、子供っぽく見せたり、フォーマルに見せたり、カジュアルに見せたり、男性的に見せたり、女性的に見せたり。若くして高い地位にある人ほど、その振れ幅が大きい。その振れ幅が一定を超えると、私にはその人が一人の人間に見えなくなり、多重人格者を相手にするような恐怖を感じる。いまのAさんがどのバージョンのAさんなのかが分からないのだ。相手に合わせて色んな自分を演出するのが教養なのだとすれば(下の話と関連させるなら、異質な複数のコミュを行き来する能力が教養であるとするならば)、自分は教養の無い人間だと思うし、低学歴で低収入で低い地位にあることが相応しい人間なのだと思う。
以上、今日の空想日記でした。